認知症ケアの大切なポイント『理にかなったケア』
大雑把な質問だけど、今までの認知症のケアはどのようなケアだったか知っていますか?
えーっと、患者さんの人柄を大事にした寄り添ったケアですか?
そのような考えでいるのは素晴らしい!ただ、その考えは1985年以降の考えで、それまでは「衰えた人は気の毒」や「社会の為に長く生きて貢献した人」というような『心情的なケア』だったんです。その他にも、課題とされている認知症の行動・心理症状(BPSD)に対してはこうすればいいといった経験的な決まったケアが行われていました。それがどういうことか分かるかな?
うーん、大事なことではあるけど、個別性のないというか…それだけだと他の介護職や関係者に介護の技法として伝わりにくい感じがするし、客観性にも乏しい気がする…
その通り!そこで、精神科医であった室伏さんという方が1985年に、認知症の人には”理にかなったケア”が必要であることを指摘してくれたんだ。これが認知症ケアの大切なポイントであり、わが国で初めて提唱された認知症ケアの理念でもあるんだよ。
現在の認知症ケアの主流『パーソン・センタード・ケア』
イギリスの心理学者であるキットウッド(Kitwood T)が提唱した認知症ケアの理念です。
人の名前がいっぱい出てくると話が難しく思えてくるな…
確かにね~。ちなみに、認知症ケア専門士の試験には提唱した人の名前も出てくるから、侮れないところなんだよ。それに、認知症ケアを語るうえでは欠かせない名前だから、頭の片隅にでも置いていてもらえると良いな。
キットウッドは、従来の医学的対応に基づくケアをオールドカルチャー、パーソン・センタード・ケアをニューカルチャーと呼んで新しい認知症ケアと位置付けました。
オールドカルチャーとは
例えばアルツハイマー型認知症は、脳の進行性病変によるものであり、ケアは衛生状態や食事の摂取、排泄、入浴などを介助する事という考え方
ニューカルチャーとは
認知症は生活(暮らし)の障害として捉えて、その人らしさを支える全人的ケアであり、衛生状態や食事摂取、排泄などはその一部に過ぎないという考え方
認知症の人が望んでいるケア
私たちが認知症の人のケアを行うときに大切なことは、当事者の思いや考え、声に対して、私たちの力のすべてを振り絞って聴く事や受け止める事です。その為には、自分の肩の力を抜き、明るい気持ちで微笑みながら静かに接する意識も大切です。
認知症の人は、健康な物忘れと比べて、体験したこと自体が抜け落ち、思い出せない(エピソード記憶)事もあると聞いたよ。
そうですね、その出来事や体験自体を忘れ、日常生活に支障が出てしまう事で、認知症の人にしか分からない不便さや苦しみ、悲しみ、悩みなどを理解していかなければならないんだ。パーソン・センタード・ケアの中でキットウッドは、認知症の人が求めている5つの要件を示しているから、紹介するよ。
認知症の人が求めているケア5つ
①なぐさめ(安定性)
心が混乱してばらばらになりそうなとき、1人の尊厳性をもつ人間として1つの心にとどまる事が出来るように、温かさと力を用意する。
②愛着(きずな)
不確定で不安な気持ちに対して、生まれたばかりの乳児が母親を求めるような密着、愛情の求め、それに対する応答が必要。
③帰属意識(仲間に入りたい)
孤立ではなく、人と交わっていることで得られる安心感を持ってもらう。注意を引く行動やまとわりつくといったサインを見逃さない。
④携わる(役割意識)
人は自分が仲間にとって役に立つ存在であることで安心し満足することが出来る。その為に、その人の能力や気力を引き出す事。
⑤その人らしさ(物語性)
自分が誰であるかを知り、過去から一貫した自分を保つことが出来るようにする。その人の過去の物語を聴き、内的体験を聴く事である。
認知症ケアとは、自分の人生の時間の一部を、それを必要としている人のために、自分を磨きながら使うという素晴らしい仕事である!
コメント